総評
斎藤道三は、「蝮の道三」と呼ばれ戦国期を代表する下克上の代名詞である。織田信長の正室帰蝶の父で道三が桶狭間の戦い前の「うつけ」と呼ばれていた織田信長を数年後、美濃は婿殿の手にあるだろうと高く評したとされる。
前述したが現在道三の偉業は、道三と父2代で行ったものであるとの説が有力視されているが道三が卓越した手腕で守護代、守護を滅ぼし1国1城の主までにのし上がったのは、まぎれもない事実である。織田信長もこの舅を高く評し道三が息子義龍に攻められたとき、救出不可能の情勢であるにもかかわらず援軍に向かったことでもそれがよくわかる。
道三が具体的にどのような人物であるのかは、斎藤道三の名前があまりにも有名であるにも関わらず資料が少ない。前身が油売りであったとするならば当時としては、最下層の身分であり、美濃の小守護代の家臣となるには、武芸はもちろん人を惹きつけるものがあったと推測する。
行商をしていたのであるならば諸国を巡っており、仕官の先(将来もみすえて)にどこの国が良いかそしてどうすればのし上がれるか(商人なので利を必ず追求するだろう)を見極めた上で仕官先を選んだのではなかろうか。その意味では、知略に富んだ文武に秀でた人物であっただろうと管理人は考える。
道三の代名詞が蝮や国盗りでわかるように道三の特徴は、「盗る」ことである。戦いで消耗して奪い取るのではなく、流血を最小限にそのポジションを盗んでいくことにあると思う。それは、油売りの身代を油問屋の娘婿になることで得たことから始まる。
仕官後におそらく行商で得た豊富な知識と秀でた武芸の才で守護の弟である土岐頼芸の心を「盗る」。そして家督相続に勝った土岐政頼の居城、革手城を急襲して越前に追いやり、政頼から守護を「盗り」頼芸を守護につける。長井長弘が急死もしくは、道三が殺害して小守護代の長井氏の名跡を「盗り」、同時に長井氏の地盤をも引き継ぐ。ほどなく美濃守護代の斎藤利良が病死すると、その名跡を「盗り」今度も地盤ともども引き継ぎことに成功している。
美濃守護との直接対決では、戦いで美濃一国を奪い取ったのだが守護とそこまで対抗できる地盤は、あざやかに「盗」っている。断っておくが彼が卑怯だと言っているのではなく、道三は、あきらかに知略に富んだ異色の武将だっただろうと思うのである。そして自分の経験・知略全てを教え、注ぎ込んだのが道三の正室の姉妹の子である、明智光秀であったと管理人は信じている。
道三は、嫡男の義龍に攻められ戦死する。ただ道三は、今までの「盗る」ことで成り上がったことから道三に味方をしようとする家臣団がほとんどおらず義龍が17500の兵を動員したのに対し2500の兵しか動員できなかったというのは、あまりに皮肉である。彼の生き方は賛否両論あると思うが、彼は、戦国乱世が生んだ一つの典型的な武将であったと管理人は考えるのである。そして道三が我が子のように教えこんだ明智光秀が同じく道三が高く評した織田信長の天下統一の夢を本能寺の変にて「盗って」しまったのは、運命であったようにも思えるのである。
国盗り物語 司馬遼太郎(著)
前半部分が斎藤道三編・後半部分が織田信長編と別れているが斎藤道三の波乱に満ちた全生涯を描いてる小説である。ここでは、斎藤道三の従来の説にそくして、道三一代の国盗りを魅力あふれる道三像を司馬独特のタッチで描いている。とてもおもしろく読めてしまうので勧めである。
国盗り物語〈1〉斎藤道三〈前編〉 (新潮文庫)
国盗り物語〈2〉斎藤道三〈後編〉 (新潮文庫)